*
2001年2月、香港で三ヶ月以上にわたって上演された舞台劇「煙雨紅船」の千秋楽を終えた家輝には、すでに次のオーファーがかかっていた。次回作に関しての問に、彼は「多分台湾で映画を撮る予定」としか言わなかったが、4月2日、「双瞳」は台湾で正式にクランクインした。そして6月23日のクランクアップまでの約3ヵ月間彼はほとんど台湾で過ごした。
家族を愛する家庭的な家輝にとって、ロケといえども海外での生活が長くなると孤独で退屈な思いをするそうだ。しかしこの時ほど孤独感が極まったことはなかったと言う。台湾でのスタッフのうち顔見知りはわずかに二人、そればかりかほとんどのスタッフから疎外された感じを受け、仕事以外のプライベートな時間はほとんど一人でホテルの部屋に閉じこもっていたらしい。黄火土の孤独を肌で感じたという。これには実はわけがあって、監督の陳国富が家輝の役どころを配慮して周囲にわざと彼から遠ざかるように指示していたというのだ。そのせいだけではないにしても、映画の中の家輝のうらぶれた孤独な姿や家族に対する演技は真に迫っている。
また、この作品は戦慄と驚愕の内容だが、彼は撮影時に映画以上の恐怖や奇遇を味わったそうである。ある病院の実験室で撮影した際、周りにあったおびただしい数の手足の標本が実は本物だったと後で知ったときは最も恐怖に震え上がったらしい。また家輝には双子の娘があるが、共演のデビッド・モースにも双子の子供がいると知り、不思議な偶然に驚いたとも言う。
以前から国際的舞台での活躍が多い梁家輝。その演技の幅の広さには定評があり、たくさんの映画賞にも輝いている。2000年の中国映画「刮_」(トリートメント)では、中国電影大奨の最佳男主角(最優秀男優賞)を獲得した。以前の華やかさに最近は渋みが加わり、ますます彼の役者としての奥深さを感じる。「雙瞳」での演技は香港でも高く評価され、きたる第22回香港金像奨の最佳男主角のノミネート者にその名前があげられている。 |